FT8の外国との通信に限る注記の削除とIARUベースの告示とバンドプラン
1.はじめに
総務省の「周波数再編アクションプラン(令和元年度改定版)」の今後取り組むべき課題として新たに「アマチュア無線のMF帯についてバンドプラン等を見直す検討を 開始する」項目が追加されたことによりバンドプランの改正が現実のものとなった。日常の運用で問題となっている「外国との通信に限る」との限定に関してアクションプランの改正案に対するパブコメ(93ページ)の中で廃止と継続の2つの意見が述べられている。
廃止意見:
・7MHz 帯(例として 7056kHz、7074kHz-7076kHz)等で狭帯域デ ータ通信モード FT8 を使用する場合、外国との無線通信に限る 旨の制限が設けられているが、この制限を解除して欲しい。
継続意見:
・1,835~1,850KHz については、海外局との交信に限り狭帯域デ ータの交信可との特記が欲しい。
・3,565KHz~3,615KHz は国際的に狭帯域データの周波数となっ ている為、現状と同じ使用区分若しくは、狭帯域データの海外 局との交信に限る特記を希望。
2.限定の歴史
「外国との通信に限る」の限定があるJARLバンドプランは1004年1月13日付で「7040kHzから7045kHzまでの周波数は、外国のアマチュア局との狭帯域デジタル電波による通信にも使用することができる」が確認できる。またこれを受けて2004年頃のJARL周波数委員会のデジタル化に対応した周波数区分の議論でも確認できる。結果2009年(平成21年)のバンドプランで以下の帯域で注記が加えられた。
50.00~50.30MHz
144.10~144.20MHz
その後遅れて地上系でJT65の運用が始まり同様の注記が加えられてSSBとの共用で狭帯域データの運用が2015年(平成27年)が認められた。
1.9075~1912.5MHz
3.535~3.575MHz
7.045~7.100MHz
14.112~14.150MHz
18.090~18.100MHz
18.110~18.120MHz
21.125~21.150MHz
24.930~24.940MHz
28.15~28.20MHz
29.00MHz~29.30MHz
50.0~50.1MHz
51.0~51.5MHz
144.10~144.20MHz
この注記で実際のFT8の運用周波数で通信が可能となったのは3.5MHz帯と7MHz帯である。
これは
・IARUバンドプランには占有帯域幅で500HzをNarrowband modesと(SSBと共存できるように)2700HzをDigimodesと区別をしており、Narrowband modesより高い周波数側にDigimodesを配置して多くのデジタル帯域を確保している。FT8は本来Narrowband modesに属するがDigimodesでも運用可である。
・国内プランにはNarrowband modesのみでこの占有帯域幅をDigimodeと同じく3kHzとしているが特に3.5MHz帯と7MHz帯は割り当て帯域は狭く割り当て帯域の上下の位置はIARUバンドプランと整合性が取れていない。
・FT8は全体としてNarrowband modesの周波数帯に運用周波数を選んでいるが3.5MHz帯と7MHz帯ではDigimodesの周波数帯を選んでいる。これはIARUバンドプランでもNarrowband modesが狭いためである。このため国内事情(注1)が多い3.5MHz帯と7MHz帯ではFT8の運用周波数が言わずもがなで上記の注記の周波数帯に入ってしまったためである。2015年以前にはJT65は運用さえできなかったため「海外との通信に限る」との制限付きでも一歩前進として歓迎されたのである。
以上からこの限定は2004年頃にデジタル化を契機とした国内規定の「諸外国のEMEとの整合性を考慮」であり、現在のHF帯に広がってきたJT65に対して「国内のルールが障害となり国際間の通信が不能とならないようにする」との整合性にとどめた改正である。
3.限定の弊害
HF帯でのJT65運用は微弱通信のためのマニアックなマイノリティーに留まっていたが2017年に出現したFT8はRTTYのみならずCWも凌駕するマジョリティーになりHF帯のデジタル化に大きく貢献した。
この理由は
・微弱性能の維持 (S/N<-18dB)
・高速性(1シーケンス60秒ー>15秒)
・自動交信のためのオートシーケンス
・4級で運用可
と考えられる。
このため「外国との通信に限る」の限定は以下の理由から弊害としてみなされ新たなガラパゴスと非難され始めた。
・周波数有効利用
FT8は帯域幅は50Hzで~3kHz帯域をマルチデコードで全帯域として運用している。すなわちSSBの1チャネル分しか使用しない。そのため利点と言われている海外スキップ時の国内SSB局の周波数利用率の向上は7MHzでわずか+2%(=3kHz/152kHz)である。一方常に国内・海外に2つの~3KHz幅の周波数が必要なためトータルの周波数利用効率はー50%になり非効率性。
・操作性
通信相手による周波数選択操作の煩雑さが嫌われる。
・国内通信は不法行為
バンド内の別モード運用でも告示で規定されているため不法行為とみなされる。
・外国と国内の定義の曖昧性
小笠原、南極、公海、JAコールでの海外運用は外国なのか?
総務省自身が判断を避ける(6ページ)曖昧な定義で運用が不法との議論が絶えない。
4.今後のバンドプラン
根本的な弊害解決法は「国際的な整合性を最優先する国内バンドプラン」から「国際的なバンドプランを基にした国内バンドプラン」である。最近IARU R1とIARU R2と親和性を持たせて改定されたIARU R3のバンドプランをベースに国内バンドプランと対応する総務省告示を改定することが望ましい。このバンドプランにはFT8の運用周波数が注記されており国内外の通信が制限なく運用可能である。
現状はIARUとJARL(各国のアマチュア無線連盟)と総務省(各国の主管庁)との間の責任分担は明確でなく冗長で曖昧な規定が多い。これを無くすと3.項に記載の「不法行為」、「定義の曖昧性」は起きない。
分担例:
IARU R3:
・モード・使用区分の管理
・リージョン共通の脚注管理
・リージョン間(R1, R2, R3)の調整
JARL:
・IARUと総務省規定(運用規則第二百五十八条の二の規定に基づくアマチュア業務に使用する電波の型式及び周波数の使用区別)の整合性
・独自の脚注管理:非常通信周波数3.536MHz、ビーコン14.100MHz e.t.c.
総務省告示:
・周波数、周波数範囲、(無線局運用規則第二百五十八条の二の規定に基づくアマチュア業務に使用する電波の型式及び周波数の使用区別の「使用電波の型式及び周波数の使用区分」欄は削除)
・電波の質(電力、電波型式、占有帯域、スプリアス)
5.まとめ
全アマチュア局数は「1995年3月末に過去最高の136万局を記録したピークから2019年には70%減の41万局」で国内SSB混信問題は解消した。このため「外国との通信に限る」と限定する必要性がなくなった。デジタル化の普及は国内においてもFT8で確認できることから国内バンドプランにおいてもこの限定を今後廃止すべきである。なお、パブコメの中の「継続意見」は新たに割り当てられる1.8MHz帯および3.5MHz帯においては既存SSBがないため「外国との通信に限る」と限定する合理性はない。
また、今後のバンドプランはIARUベースのバンドプランとして国内的整合を取るべきである。また、総務省告示との責任分担を明確にして重複した曖昧な規定を避けるべきである。
以上
注1:国内事情とは諸外国に比べても全帯域幅が狭かったため、2004年に7040~7045kHzの外国の通信に限るとの注記はこの際に削除されて狭帯域データは7025kHzからでなく7030~7045kHzに5KHzずらす調整がされている。また、3.5MHzは狭帯域データは2004年には3520~3530kHzであったが2016年には3520~3535kHzと5kHz拡張されている。ただしこの調整でもIARUバンドプランではいずれもCWバンドであり国際的な整合性は取れていない。
総務省の「周波数再編アクションプラン(令和元年度改定版)」の今後取り組むべき課題として新たに「アマチュア無線のMF帯についてバンドプラン等を見直す検討を 開始する」項目が追加されたことによりバンドプランの改正が現実のものとなった。日常の運用で問題となっている「外国との通信に限る」との限定に関してアクションプランの改正案に対するパブコメ(93ページ)の中で廃止と継続の2つの意見が述べられている。
廃止意見:
・7MHz 帯(例として 7056kHz、7074kHz-7076kHz)等で狭帯域デ ータ通信モード FT8 を使用する場合、外国との無線通信に限る 旨の制限が設けられているが、この制限を解除して欲しい。
継続意見:
・1,835~1,850KHz については、海外局との交信に限り狭帯域デ ータの交信可との特記が欲しい。
・3,565KHz~3,615KHz は国際的に狭帯域データの周波数となっ ている為、現状と同じ使用区分若しくは、狭帯域データの海外 局との交信に限る特記を希望。
2.限定の歴史
「外国との通信に限る」の限定があるJARLバンドプランは1004年1月13日付で「7040kHzから7045kHzまでの周波数は、外国のアマチュア局との狭帯域デジタル電波による通信にも使用することができる」が確認できる。またこれを受けて2004年頃のJARL周波数委員会のデジタル化に対応した周波数区分の議論でも確認できる。結果2009年(平成21年)のバンドプランで以下の帯域で注記が加えられた。
50.00~50.30MHz
144.10~144.20MHz
その後遅れて地上系でJT65の運用が始まり同様の注記が加えられてSSBとの共用で狭帯域データの運用が2015年(平成27年)が認められた。
1.9075~1912.5MHz
3.535~3.575MHz
7.045~7.100MHz
14.112~14.150MHz
18.090~18.100MHz
18.110~18.120MHz
21.125~21.150MHz
24.930~24.940MHz
28.15~28.20MHz
29.00MHz~29.30MHz
50.0~50.1MHz
51.0~51.5MHz
144.10~144.20MHz
この注記で実際のFT8の運用周波数で通信が可能となったのは3.5MHz帯と7MHz帯である。
これは
・IARUバンドプランには占有帯域幅で500HzをNarrowband modesと(SSBと共存できるように)2700HzをDigimodesと区別をしており、Narrowband modesより高い周波数側にDigimodesを配置して多くのデジタル帯域を確保している。FT8は本来Narrowband modesに属するがDigimodesでも運用可である。
・国内プランにはNarrowband modesのみでこの占有帯域幅をDigimodeと同じく3kHzとしているが特に3.5MHz帯と7MHz帯は割り当て帯域は狭く割り当て帯域の上下の位置はIARUバンドプランと整合性が取れていない。
・FT8は全体としてNarrowband modesの周波数帯に運用周波数を選んでいるが3.5MHz帯と7MHz帯ではDigimodesの周波数帯を選んでいる。これはIARUバンドプランでもNarrowband modesが狭いためである。このため国内事情(注1)が多い3.5MHz帯と7MHz帯ではFT8の運用周波数が言わずもがなで上記の注記の周波数帯に入ってしまったためである。2015年以前にはJT65は運用さえできなかったため「海外との通信に限る」との制限付きでも一歩前進として歓迎されたのである。
以上からこの限定は2004年頃にデジタル化を契機とした国内規定の「諸外国のEMEとの整合性を考慮」であり、現在のHF帯に広がってきたJT65に対して「国内のルールが障害となり国際間の通信が不能とならないようにする」との整合性にとどめた改正である。
3.限定の弊害
HF帯でのJT65運用は微弱通信のためのマニアックなマイノリティーに留まっていたが2017年に出現したFT8はRTTYのみならずCWも凌駕するマジョリティーになりHF帯のデジタル化に大きく貢献した。
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図1.FT8:50%、CW:25%、SSB:15%、(CLUB LOGにアップロードされたログデータを集計) |
この理由は
・微弱性能の維持 (S/N<-18dB)
・高速性(1シーケンス60秒ー>15秒)
・自動交信のためのオートシーケンス
・4級で運用可
と考えられる。
このため「外国との通信に限る」の限定は以下の理由から弊害としてみなされ新たなガラパゴスと非難され始めた。
・周波数有効利用
FT8は帯域幅は50Hzで~3kHz帯域をマルチデコードで全帯域として運用している。すなわちSSBの1チャネル分しか使用しない。そのため利点と言われている海外スキップ時の国内SSB局の周波数利用率の向上は7MHzでわずか+2%(=3kHz/152kHz)である。一方常に国内・海外に2つの~3KHz幅の周波数が必要なためトータルの周波数利用効率はー50%になり非効率性。
・操作性
通信相手による周波数選択操作の煩雑さが嫌われる。
・国内通信は不法行為
バンド内の別モード運用でも告示で規定されているため不法行為とみなされる。
・外国と国内の定義の曖昧性
小笠原、南極、公海、JAコールでの海外運用は外国なのか?
総務省自身が判断を避ける(6ページ)曖昧な定義で運用が不法との議論が絶えない。
4.今後のバンドプラン
根本的な弊害解決法は「国際的な整合性を最優先する国内バンドプラン」から「国際的なバンドプランを基にした国内バンドプラン」である。最近IARU R1とIARU R2と親和性を持たせて改定されたIARU R3のバンドプランをベースに国内バンドプランと対応する総務省告示を改定することが望ましい。このバンドプランにはFT8の運用周波数が注記されており国内外の通信が制限なく運用可能である。
現状はIARUとJARL(各国のアマチュア無線連盟)と総務省(各国の主管庁)との間の責任分担は明確でなく冗長で曖昧な規定が多い。これを無くすと3.項に記載の「不法行為」、「定義の曖昧性」は起きない。
分担例:
IARU R3:
・モード・使用区分の管理
・リージョン共通の脚注管理
・リージョン間(R1, R2, R3)の調整
JARL:
・IARUと総務省規定(運用規則第二百五十八条の二の規定に基づくアマチュア業務に使用する電波の型式及び周波数の使用区別)の整合性
・独自の脚注管理:非常通信周波数3.536MHz、ビーコン14.100MHz e.t.c.
総務省告示:
・周波数、周波数範囲、(無線局運用規則第二百五十八条の二の規定に基づくアマチュア業務に使用する電波の型式及び周波数の使用区別の「使用電波の型式及び周波数の使用区分」欄は削除)
・電波の質(電力、電波型式、占有帯域、スプリアス)
5.まとめ
全アマチュア局数は「1995年3月末に過去最高の136万局を記録したピークから2019年には70%減の41万局」で国内SSB混信問題は解消した。このため「外国との通信に限る」と限定する必要性がなくなった。デジタル化の普及は国内においてもFT8で確認できることから国内バンドプランにおいてもこの限定を今後廃止すべきである。なお、パブコメの中の「継続意見」は新たに割り当てられる1.8MHz帯および3.5MHz帯においては既存SSBがないため「外国との通信に限る」と限定する合理性はない。
また、今後のバンドプランはIARUベースのバンドプランとして国内的整合を取るべきである。また、総務省告示との責任分担を明確にして重複した曖昧な規定を避けるべきである。
以上
注1:国内事情とは諸外国に比べても全帯域幅が狭かったため、2004年に7040~7045kHzの外国の通信に限るとの注記はこの際に削除されて狭帯域データは7025kHzからでなく7030~7045kHzに5KHzずらす調整がされている。また、3.5MHzは狭帯域データは2004年には3520~3530kHzであったが2016年には3520~3535kHzと5kHz拡張されている。ただしこの調整でもIARUバンドプランではいずれもCWバンドであり国際的な整合性は取れていない。
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