-新スプリアス規格への移行期限の延長―への意見書を提出

6月09日付で意見募集結果が公表された。小生の意見の採番は86番。

総務省の回答は予想通り「本件意見募集案に対する賛同意見として承ります。 なお、スプリアス規格値に対するご意見については、 今後の施策の参考とさせていただきます」と扱い評価の低い「参考」であった。

ただし普段の意見募集と異なり「意見提出を踏えた改正案の修正の有無」の欄に「有」は一件も無く「今後の施策の参考とさせていただます」は提出意見132件対して12件もある異常なパブコメ結果であった。そして、JARDの期限を限定しない延長への反対意見には「今後、新型コロナウィルス感染症の収束や社会経済 状況等の回復を踏まえつつ、移行期限について総合的に検討するとともに、それまでの間については、早期に 新スプリアス規格へ移行が図られるよう各免許人の状 況に応じて対応していくこととしております」との答えである。これは「各免許人の状況に応じて対処」するのが今後の施策でありこの「状況」は参考として受け取ったご意見そのものであることがわかる。ということで今回の参考とされるご意見は普通のパブコメのような評価の低い扱いにはできないと思われる。

 移行にあたっての多くの反対意見は使用期限を設けるハードランデングな電波政策である。これに対して小生の提案はよりソフトな「クリーンな新スプリアス機器への移行した免許人が最も利益を享受できる各種のインセンティブ政策」に転換である。この具体的な政策は免許手続きの簡素化を挙げた。一般社団法人日本ローバンド拡大促進協会(41番)からは「技適機を使用する200Wを超える局の免許手続きの簡素化」の要望が出されているがこれは小生のインセンティブ政策提案(1項)と同じである。200Wを超える局の免許手続きの簡素化は一丁目一番地であることに疑いはない。また、小電力機器に対して規定と免許手続きの緩和を望む意見が多く出されているがこれは小生の提案の2項に相当するものである。

以上から今回アマチュア側から出された建設的な意見は今後の施策の方向性を指し示すものであり、小生の提案内容は今回の意見の方向性に合致したものと理解している。また、制定から15年後に免許人の示唆に富んだ多くの意見を聞いて当時の制度設計がいかに空論であったかを総務省および電監審自身が確認できたことは不幸中の幸いでありパブリックコメント制度の存在意義を示した好例であったと思っている。

(2021年6月10日記)

締め切りまで時間があったので「新スプリアス規格を電波政策に生かす」具体策を付け加えて以下の内容の意見書にアップデートして再提出した。

なお、2項の申請者自身が「自己確認」する技適制度に関しては小生の別著を参照のこと。

(2021年4月14日)

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別紙 意見

 

ITUの新スプリアス規格Recommendation ITU-R SM.329-10 (02/2003) Unwanted emissions in the spurious domainの冒頭においてスプリアス低減の努力は経済的及び技術的な要素を考慮しなければならない旨が書かれており、新スプリアス規格の移行が困難な国内約276万の約2割に対して改正前の許容値の適用を今回の社会経済情勢を鑑み当面の間見送る提案を支持する。

 

ITUで新スプリアス規格が制定されて約15年間を経て欧米諸国の具体的な導入結果を参考にし国際的な整合性を考慮できる環境にあることから、以下に示したようなクリーンな新スプリアス機器への移行したアマチュア業務免許人が最も利益を享受できる各種のインセンティブ政策を付加することを前提に「他の無線局の運用に妨害を与えない限り」旧スプリアス機の再免許を妨げない新たな政策を提案する。

 

1.      新スプリアス規格の無線機への移行を促進するため高電力HF帯の無線機ではスプリアス改善により他の無線業務への与干渉量を10dB(旧規格40dBc、新スプリアス規定50dBc)軽減できることから従来から嘱望されてきたHF帯での移動局の出力制限の50Wを500Wまでに緩和するとともに直接検査が必要なHF帯の固定局ハイパワー申請の定格電力200Wを1kWに引き上げとともに技適および保証認定の定格出力もHF帯では200Wから1kWまでに引き上げるクリーンな新スプリアス規定の無線機器のみに適用するインセンティブ政策を提案する。

 

2.      欧米においては広帯域A/DD/AFPGAPCソフトをを組み合わせることで技術的な興味に基づく無線機器の開発・製作が行えることから若年層のアマチュア人口が増加している。このためFT8のようなデジタルモードの普及によって5Wを定格出力とした自作・キットの小電力無線機器の製作販売が注目されている。この自作・キットの小電力無線機器は米国の新スプリアス規定43dBcを前提に設計されている。これは欧州では自作・キットであればCEマークなしに運用が可能である(DIRECTIVE 2014/53/EU of 16 April 2014 34ページためである。一方国内の現行新スプリアス規定の緩和は1W以下に限られており5Wから1Wでもー50dBcが必要である。これはITU規定(1Wから5Wまでー43dBcからー50dBcに変化)および米国の新スプリス規定(出力に関わらず常に43dBc)よりも厳しい規定である。これは1kWの大電力無線機器の絶対的なスプリアス与干渉量を考えれば常に小電力機器が好ましいことから緩和を5Wに与えない技術的根拠はない。 よって5Wから1Wの新スプリアス規定を米国並みのー43dBcとし国際的な整合性を保つとともにこの小電力無線機器を「特別特定無線設備」としアマチュア有資格の申請者自身が「自己確認」する技適制度を適用するインセンティブ政策を提案する。

 

3.      米国においては「旧スプリアス規格時代に設置された無線機は当時のスプリアス規格が適用される。例えば2003年以前に設置されている無線機は旧規格ー40dBcで将来に渡って運用でき」(Part 97 : Sec. 97.307 Emission standards)また欧州においては「EU商用市場に出された時点の規格が適用されることになっており中古品でもその当時のCEマークが貼ってあればずっと使用することができる」(DIRECTIVE 2014/53/EU of 16 April 2014 7ページ)ことから「他の無線局の運用に妨害を与えない限り」旧スプリアス機の再免許を妨げない許認可政策を提案する。この際に旧スプリアス規格で構成される無線局の電波利用料を加増するなどのディスインセンティブ(ペナルティー)政策を提案する。

 

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総務省から「新スプリアス規格への移行期限の延長」のテーマで意見募集が出ておりこれに対して以下の意見書を総務省に送付した。なお、募集期限は4月26日(月)である。

根拠は小生が以前に作成した「新スプリアス規定」を参照してある。なお、この意見募集に対して色々な推測がネットをにぎわしているが、小生の推測をまとめると

1)厳しい新スプリアス規定をすべての携帯電話側に適用することで携帯に再割当予定の周波数での干渉計算を容易にして、携帯電話用の周波数を確保する総務省の目的は既に達成した。

2)非携帯の国内276万局の内8割は携帯電話の非干渉局であり携帯電話用の周波数を確保することに協力することで携帯電話と同様に求められた新スプリアス規格対応費用の充当を得た。しかし、残りの2割は携帯電話の非干渉局ではなく新スプリアスの適用へのインセンティブは与えられず不満が多く総務省も合理的な正当性も主張する根拠も見当たらない。特に免許期間途中の運用停止は論外である。

3)残った非携帯の大半はアマチュア局であり(7割=40万/55万局)でありこれが最近の廃局加速の原因となり負担してくれていた電波利用料の減収につながってくるため、総務省は再免許は新スプリアス対応しなければ認めない制度は維持しながら免許期間中の運用停止(最大5年)は「見送る」ことにした。

である。

以上から今回の意見書の内容は「当面の間見送る」との後ろ向きの姿勢に意見を出すのは無駄なので積極的に新スプリアス規定を再評価して見直すべきという提案内容でまとめた。


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新スプリアス規格の移行が困難な国内約276万の約2割に対して改正前の許容値の適用を社会経済情勢を鑑み当面の間見送る提案を評価する。この見送りの期間に欧米諸国に較べて結果として最も厳しい規格を選択した我が国のスプリアス規格値が電波利用環境の維持、向上及び電波の推進に真に寄与するか否かの評価を行うことを提案する。またこの見送りの期間に、新スプリアス規格が規制の目的に合致しているかも検討すべきであると考える。具体的にはアマチュア無線機にとって国内の「50mW以下かつ尖頭電力に対して50dB低い減衰量」であるが米国のHF帯では-43dBであり欧州ではSSBは「-43dBc」で 他 の モードは「-(43+10xlog(PEP)) または-50dBc 」であり国内規定が最も経済的に実現困難となる。また両地域とも既に市場に出された無線機は新規格の適用除外となって経済的な考慮がされている。そして1kWの大電力アマチュア無線局と5W出力の小電力アマチュア無線局のスプリアス妨害を平等に規制するはずの国内規格値として欧州とは異なる「。。。かつ。。。」の表現に技術的かつ経済的な合理性があるのかを再度議論させていただきたい。
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新スプリアス規定(再掲)
ーリンク先は原文を見てくださいー

1.米国・欧州でも旧スプリアス規格の無線機は使えなくなるのだろうか
国内では新スプリアス規格が新旧全てのアマチュア無線機に適用される期限が迫っています。この際、旧スプリアス規格の技適機とか保証認定を取った無線機は平成34年以降は厳しい新スプリアス規格を適用されるため使えない場合も起きてしまいます。

無線設備のスプリアス発射の強度の許容値

日本ではHF帯ですと旧規格では「50mW以下かつ平均電力に対して40dB低 い減衰量」ですが新規格では「50mW以下かつ尖頭電力に対して50dB低い減衰量」と厳しくなっています。平成34年以降は旧規格では運用できません。

一方米国では新スプリアス規格はー43dBと若干厳しくなりますが旧スプリアス規格時代に設置された無線機は当時のスプリアス規格が適用されます。例えば2003年以前に設置されて無線機は日本の旧規格ー40dBで将来に渡って運用できます。このことはJA0IAAさんのサイトで詳しく説明されています。

Part97: Sec.97.307 Emission Standards

新スプリアス規格を考える

次に欧州では旧スプリアス規格は「-36dBmまたは-40dBcでいずれか高い値」となっていましたが新スプリアス規格は「SSBは「-43dBc」で 他 の モードは「-(43+10xlog(PEP)) または-50dBc でいずれか高い値」となっています。 しかしながらEU市場に出された時点の規格が適用されることになっており中古品でもその当時のCEマークが貼ってあればずっと使用することができます。なお、旧規格は陸上移動業務全般ですからアマチュア無線に限った話ではありません。

ETSI EN301 783-1 V1.1.1 (2000-09) (旧スプリアス規格)

ETSI EN301 783 V2.2.1 (2016-01) (新スプリアス規格)

無線機器指令2014・53・EUへの適合のためのガイド 2.3中古品などの扱い

以上から、WRC-03で世界的に導入が決まった新スプリアス規格ですが日本だけが古い無線機を持ったユーザに不利な導入方式が取られていることが混乱の原因のようです。この導入方式の必要性の説明は特段総務省のHP等で説明されていませんので欧米方式に合わせるがよいと考えています。


2.新スプリアス規定のメリットを考えてみました
新スプリアス規定のメリットは他の周波数で運用中の無線局への電波障害の減少です。HF帯の無線機では旧規格に対して新規格は10dB良くなっています。10dBの減少を距離に換算すると0.3に面積にすると0.1になります。

無線局免許申請で200W以上のハイパワー局の申請時の審査のための関東総合通信局の添付書類は以下のようになっています。

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送信機系統図 1部
・エキサイター(トランシーバー)からリニアアンプを経由してアンテナまでのもの。(エキサイター(トランシーバー)等の型名・名称を記入してください。)
・また、RTTY、SSTV、PSK31、FAX、パケットなどの付属装置がある場合は、各装置の諸元も併せて記載してください。
・付属装置の諸元とは、【1】変調の方式、【2】通信速度、【3】副搬送波周波数、【4】周波数偏移、【5】電波の型式などをいいます。
電波防護指針に基づく基準値に適合していることの証明書(アンテナの設置状況が判る平面図及び立面図を含む) 1部
(1)  人が通常出入りする場所(人が通常、集合し、通行し、そのた出入りする場所のこと)での電波の強さ(電界強度)は、電波法施行規則第21条の3で定められています。 
(2)  計算に当たっては、次の計算表をご利用ください。       
電界強度計算表
(3)  この計算表での距離を確認できる、アンテナを中心とした平面図・立面図も添付してください。
(4)  平面図は、アンテナを中心に半径100m以内の家屋や建物の設置状況が判るようにしてください。(これらの図面には、アンテナから道路、あるいは隣家との境界線までの距離も記入して ください。)
他の無線局の設置状況を示す図面 1部
重要無線通信などに対する電波障害の可能性の有無を確認するため、アンテナを中心に半径1km程度の範囲の「警察用・消防用無線局」「列車無線基地局」「携帯電話基地局」と「医療機関(病院・医院)」の位置関係が判るA4版の図面です。
放送の受信状況の説明 1部
設置場所でのテレビ・ラジオの受信状況一覧表。各放送局(送信所)までの方位・距離も併記してください。
返信用封筒
92円切手(定形内の場合)を貼った返信用封筒を申請書と一緒に提出してください。
審査が終わりましたら「無線局指定変更・変更許可通知書」及び検査を受けるための説明資料を送付いたします。なお、設備共用等により、検査不要の場合には、免許状のみの発行となりますので、82円切手(定形内の場合)で結構です。
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3項の重要無線通信無線局位置確認は現在半径1kmですがこれが300mになります。これは調査の範囲を半径1kmにしたからと言ってかならずしも電波障害が発生するとは限らないというのが現実でしょう。例えば現在では都市部では携帯電話基地局のセル形式でサービス半径は1kmが平均で必ず数局x事業者数の基地局の位置が確認されると思います。たぶん念のためでしょう。いずれにしても新スプリアス規格の無線機の場合は10%の面積に縮小されるため妨害の可能性もまた10%に減少します。

4項の放送の受信状況は具体的には自分の家の周りの8件の家が妨害調査の対象のようです。これが0.3の距離に短縮されると結局は周りの8件ではなく自分の家のテレビ・ラジオの受信状況だけになってしまいます。

このことから3項と4項は新スプリアス規格の無線機ですと事前審査の対象から外し実運用での妨害発生時に適切に対処する事後審査に回すことが可能となります。

そして1項は書面での審査ですから技適もしくは保証認定を受けていれば従来から簡易な免許制度の対象となり予備免許と検査が省略されます。2項は従来通り必要だと考えていますので200W以上のハイパワー局のみ書面審査のために申請書に追加添付すればよいと思っています。

結論として、今まではハイパワー局は簡易な免許手続きの対象にならなかったので開局は難しかったのですが新スプリアス規格の無線機であれば申請手続きが簡単になるメリットがあります。

別の見方をすると、従来から省略されていた200W機の旧スプリアス規格と同等のスプリアス量を新スプリアス規格の無線機で出すには2kWの出力を要することを考えると、1kW以下の新スプリアス規格のハイパワー局に検査省略の論理を適用することには納得されると思います。

既に平成19年12月以降は新スプリアス規定で技適とか保証認定が10年間行われているとのことですが対象となるハイパワーの無線機が技適とか保証認定の対象にする改正が行われていません。このままではアマチュア側にはスプリアス発射を減らすメリットはありません。アマチュア側がこのことに気づいていないためでしょうか?それとも関係者が何かの理由で黙っているのでしょうか?ミステリーです。

最後に、せっかくクリーンな電波にしようという改正ですから新スプリアス規定対応の無線機の普及につながる施策として申請料とか電波利用料の減免とかと合わせてハイパワー機の技適・保証認定の対象拡大を考えてもらいたいものです。

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