JT65のオフバンド(3.576MHz)運用の原因の真相

1.はじめに
「デジタル文字通信「JT65」のオフバンド(3.576MHz)運用」がアマチュア無線界で話題になったのは2015年10月16日に関東綜合通信局が同局のWebサイトに「アマチュア局が動作することを許される周波数帯外の電波監視について《オフバンドでの電波発射は違反です》」と異例の警告が出されたのがきっかけです(Hamlife.JP) 。この結果約1年で少なくとも16名のハムが行政処分を受け40日前後の「無線局の運用停止処分および無線従事者の十字停止処分」を受けました。最近はこの行政処分が行われないようなのでオフバンドがなくなったかに見えますが、HamSpotsなどを見ていると実際は今もこのオフバンド運用は続いております。

この投稿はこれを引き起こした原因を調査した結果をまとめてこの問題の解決方法を示してあります。

2.原因
JT65のソフトウエアはK1JTが中心となりwsjt-develを場として開発されていますが、この運用周波数はITUが3つのリージョンに分かれて活動していることに倣ってアマチュア無線においてもIARUが存在し、これを3つの地域に分割した組織IARU R1~R3がそれぞれの加盟メンバーとで調整したBandPlanに基づいて決定されています。


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 3.5MHz帯の各リージョンの最新のバンドプランは以下の通りです。

IARU R1 Bandplan 06/01/2016

IARU R2 Bandplan 10/14/2016

IARU R3 BandPlan 10/15/2015
JT65が属するNB(Narrow bandwidth modes)は3.5MHz帯ではIARU-1とIARU-2では2014年には3.580-3.600MHzであったのが2016年に3.570-3.600MHzとなっています。すなわちWRC-15を挟んで3.570-3.580MHzが追加されています。ちなみに日本が属するIARU-3での最新版は2015年10月15日付のDocument R3-004のようですが、これは3.580-3.600MHzのままでWRC-15の3.570-3.580MHzは追加されていません。よってWRC-15の反映されているかはホームページの資料からは不明です。
2014年のIARU R1のバンドプラン

2014年のIARU R2のバンドプラン

2014年時点でのIARUのBandPlanはJT65の運用周波数3.576MHzと異なります。このことはwsjt-develpでも当時話題になったようで2014年11月13日付で「IARU-1とIARU-2のBandPlanに合致していないために3.580MHzまたは3.586MHzに移行する」提案をK1JTから出されています。
2014年時点のwsjt-xでの80mの運用周波数の議論

その後特にJAを含めたRegion3からの発言はなかったようですが米国欧州を含めた意見がだされていますが結局そのまま3.576MHzで現在に至っています。背景にはPSK31等の使用している周波数に移行するよりも、むしろCWの周波数を獲得しようとの意図がありWRC-15でCWバンドであった3.570-3.580MHzをNBに追加したと考えれば整合性がとれます。(3.570MHzで押しとどまったのは3.560MHzがQRPの運用周波数であったようであることは興味深い)

今回のオフバンドの原因はwsjt-develは米国中心であるために運用周波数は米国を基準に選ばれているのが原因と思われているようですが、実は国際的な整合性には留意しており特に欧州との整合性は過去にも議論されているのはwsjt-develpのアーカイブを読んでもよくわかります。

以上から、WSJTの決定プロセスに現状のJARLのバンドプランの整合性を取るためにはIARU-3のBandPlanとの不整合をまず解決しなければなりません。

そのためには、

1.IARU-3の3.580-3.600MHz(細かく言うと3.580-3.599MHz)はJAにとっては戦後一度も割り当てられていない周波数帯です。JARLのバンドプランと整合性を取りJAで利用できる周波数帯を3.5-3.575, 3.599-3.612, 3.68-3.687, 3.702-3.716, 3.745-3.770, 3.791-3.805のみであることを明記しなければなりません。

2.最新のJARLのバンドプランから見ると3.570-3.575MHzがIARU-1とIARU-2のBandPlanと整合性が取れています。そのためにはIARU R3のBandPlanに3.570-3.575MHzを追加する必要があります。

これで3.5MHz帯ではJAを含めて国際的な整合性のある周波数は3.570-3.575MHzであるとwsjt-develなどの開発チームに告知できる状態になります。

3.提言
IARU-3の事務局を置き国メンバーであるJARLは早急にIARU-3に対してBandPlanにNBとして3.570-3.575MHzを追加することを提案してIARU-3のBandPlanを改正するべきです。そしてこれでもってJARLはwsjt-develに対して3.5MHzの運用周波数を3.570-3.575MHzに移行するように積極的に働きかけるべきです。最近では新たにFT8などの新モードが開発されておりこの割り当てを3.570-3.575MHz内に入れる働きかけは緊急を要する問題です。

なお、JT65はwsjt-developによるWSJT-X以外に現在複数のソフトウエアが提供されており、このうちJTDX-HFの開発グループjtdx-technical groupに対して上記の働きかけを開発メンバーとして行いJTDX-HF独自の新モードのT10の運用周波数を3.570MHzにすることに成功しています。上記のようにJARLバンドプランとIARU-3のバンドプランとの整合性を常に確保しておけば、今後新たなデジタルモードの開発グループが誕生しても運用周波数で問題をなくすことができると考えています。

以上

(2017年7月4日記)

追記:FT8で運用周波数を変更する動きがあり上記の提案プロセスを実施する時間がないと判断して日本在住の開発メンバーとしてWSJT-Xに提案してこの提案は採用されました。(別のブログ「3.5MHzのJT65等の運用周波数はJAのバンドプランに合わせて3.570-3.575MHzに移行」http://playredpitaya.blogspot.jp/2017/07/80mjt65ja3570-3575mhz.htmlを参照)この中で「提案の3.570-3.575MHzはIARU R1とR2の周波数分配表とは合致している」と敢えてR3は入れずに理由付けしている苦しさを理解してもらいたいと思っています。取りまとめを行っていたG4WJSの返事のメモとともに添付していきます。今後他の開発グループでも同様の運用周波数の選定作業が行われることから上記のJARLの提案は引き続き重要な意味を持つと考えています。

JA5AEAからの提案とG4WSJの受領コメント

(2017年7月26日記)



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