アマチュア局の「工事設計のうち軽微なものとする」が誕生した起源を調べる

1.はじめに

「ワイヤレス人材育成のためのアマチュア無線の活用に関する提言」関連で「無線設備の把握を行わず無線設備の検査等を不要とすべきとの意見について、本アドバイザリーボードは、国民の生命や生活に多大な影響が生じる可能性など以下の懸念があり、産業界など他の電波利用者や国民からの理解が得られていないと考える。」と物騒なことを言っているのだけどどうせKWの包括論者の挑発への牽制とたかをくくっていたら昨週末ローカルからこれに関して改正案が出ているというQSPでチャネルが騒がしくなった。

驚いたことに別紙2の「(3) アマチュア局に係る技術基準適合証明等を受けた無線設備※の取替・増設・撤去に係 る簡素合理化」の中で「適合表示無線設備を改造する、附属装置を接続※する等の「変更」を行った場合は、 届出にはなりません(変更申請が必要であり、また、国等による検査又は保証業者による保証等が必要 となります。)。」とあり小生のような実験ハムにとっては伝家の宝刀である別紙5を廃止して新たに別紙6を作っている。

この中で送信電力に関わらず「無線設備の電気特性に変更をきたさない時に限る」の文言を追加している。これは総務省のこの確認作業に対応するため申請側は多くの手順が必要になることは他の無線局の規定から安易に予想できるしまた「アマチュア局の自己確認権を利用したTS-680S変更検査省略事例」でも経験したものである。例え20W以下でも変更申請と言われれば唖然とする。

このため現行の「工事設計のうち軽微なものとする」とする条文の起源をしらべてみた。

2.昭和二五年の第7回国会 衆議院 電気通信委員会公聴会会議録

この中で大河内は以下のことを述べている。

1。「一般の無線局にすべて通用するように書いてありますが、個々の無線局を考えたときに、必ずしも当てはまらないようなことが規定されておるところに、一番大きな不満を持つのでございます。」と(たぶんFCC Part 97を意識してか)現行電波法の問題点の本質をついている。

2。アマチュア無線を他の無線局と「特殊な立場」に区別する論理展開をしている。新設および変更検査に関してはこの時点で「簡易な手続」と「極力最低な検査料」のを提案している。これがこの口述の最大のポイントとなっている。

3。参照している電波法の条文建てはほぼ現行と変わらない。また第七十三条は(定期)検査と同じであるが大河内の主張は旧無線電信法の第73条には「検査を省略」が書かれているが現行電波法案にはない「逆もどり」を指摘している。

この公述と橋本(登)委員の対応が昭和二五年の電波法に「検査省略」の項目が追加され「昭和二十五年電波監理委員会規則第十四号別表第一号の三第一の表21の項目および第2の表2の項目」のアマチュア局の変更申請とその検査省略の要件「工事設計のうち軽微なものとする」が誕生した起源となっている。

4。Wikiでは大河内正陽は当時昭和20年東工大を卒業後昭和26年4月に東工大講師になる直前の若き院生か助手と思われる。後日、日本アマチュア無線連盟(JARL)名誉会員と紹介されているが、この議事録では「日本アマチユア無線連盟理事長」となっている。小生が生まれた頃にわずか30歳前にワイアレス人材育成をテーマに関して国会でアマチュア無線界を代表して堂々と論陣を張らせるのはさすがに当時は逸材ぞろいであることが良くわかるしこれに応じた立法と行政に尊敬の念さえ抱かせる。敗戦直後はすべてのベクトルが一致していたのだろう。まあいまさら何のことと思える「アマチュア局の周波数測定装置に係る規定の整理」をしているのにバカ正直さを感じてくれれば不幸中の幸いである。

3.おわりに

現行電波法が誕生した昭和25年にアマチュア無線に関して検査省略の概念が誕生し法令化が完結している。

これは以下のように大河内の論理構成を正面から否定する理由でもって同じテーマに対して同じアカデミック出身者と同じJARL会長から構成されるアドバイザリーボードの答申に基づくと大河内が聞けば「2度目の逆もどり」と嘆息すると思う。

総務省:

・無線設備等が電波法の要件に合致することを検査等により確認することが必要。(資料2.P1 

・無線設備の把握を行わず無線設備の検査等を不要とすべきとの意見について、本アドバイザリーボードは、国民の生命や生活に多大な影響が生じる可能性など以下の懸念があり、産業界など他の電波利用者や国民からの理解が得られていないと考える。(提言 P.4

端的に言えば今回の改正は 「昭和25年から70年を振り返って国内アマチュア有資格者には変更に関する技術力に関して信任するに値しないので大河内JARL理事長の主張する「特殊な立場」には理解が得られないので今後は第3者機関の証明をもらってその後変更申請しください」との総務省の結論を述べているのであるが、この間にアドバイザーボードの構成委員である提案元のJARL、養成機関JARD、アカデミックなどがどのような失敗があったかの分析しそれでも解決する方法がないでこのような結論になったとの説明が明示されていないと思う。

皆様のシャックの壁に貼り付けて何度も読み直して頂きたい。我々の背中を押す70年前の檄文である。

以下関連部分の抜粋。

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第7回国会 衆議院 電気通信委員会公聴会 第3号 昭和25年2月10日

理事 橋本登美三郎君

出席公述人

        日本アマチユア

        無線連盟理事長 大河内正陽君

本日の会議に付した事件

 電波法案及び電波監理委員会設置法案について

○大河内公述人 私大河内正陽でございます。私はかつてアマチユア無線をやつておりました一員といたしまして、また大学で無線の実験をいたしておる立場で、主として実験局、アマチユア無線というような観点から、法案について意見を述べさせていただきたいと思います。

 現行の無線電信法は、ほかの公述人からも御意見がありましたように、電波は元來国家というか、政府のものであつて、各人に許してやつておるのだというふうな考えからつくられていたような気がいたします。そしてその法律が一度できますと、だんだん世の中が進歩して状態がかわつても、われわれの力ですぐに改めることは非常に困難な状況でございます。今度この電波法案が提出されまして、そういう点が相当改まつて参りましたことは、喜ばしいことでございますけれども、なお昔の考えが全部ぬぐい切れていないという感じを受けます。

  この法案は、技術の大綱あるいは行政的な面の大きなところをきめるという趣旨で立案せられたものと思いますが、それにしてはあまりにこまかいところまで及んでおる。そしてこの法案は、一般の無線局にすべて通用するように書いてありますが、個々の無線局を考えたときに、必ずしも当てはまらないようなことが規定されておるところに、一番大きな不満を持つのでございます。

 そういう例を引きます前に、アマチユア無線とか実験局の性格をお話しいたしますと、実験局というのは、実用に供する前学術的ないろいろな研究を、学校なり会社の研究所でやるものであり、アマチユア無線と申しますのは、これは実験研究という面もございますけれども、あくまで個人的な興味から出発するもの、そして各人の興味でこういうことをやつて行くことが、先ほども申しましたように、国際親善であるとか、技術者の養成であるとか、あるいは非常時におけるアマチユア無線の活動、そういう公共的な役に立つて行く。あるいは先端の技術を個人が興味で取入れてやつてみる。実用化の一番先端を切るということもある場合にはございます。そういうわけでこのアマチユア無線というのは、国際的にも権利を與えられ、周波数を割当てられているわけであります。

 こういう無線局の立場として考えますと、まず工事の設計だとか、あるいは機器の検査、免許というふうに、非常に厄介な手順をふんでいることでございます。これは戰争前の例で申しますと、早くて六箇月、長いのになると一年もかかるというありさまで、これではせつかくやろうとする興味もなくなりますし、また実際の進歩も非常におそくなるということがございます。これを法律では各無線局について一律に規定してございます。たとえば六條あるいは八條から十二條、十四條、十七條、十八條というような規定は、すべてそういうこまかいことを含んでいるわけでございます。そういう特殊な立場もございますから、そういうものについては、たとえば電波監理委員会規則で定めた簡易な手続によるというような一條を追加されたならば、非常に運用が楽になるではないかと思う次第であります。これが、たとえば現行法の七十三條を見ましても、ある場合には検査を省略できるということが書いてございますのに、今度の法案ではまつたくその言葉がないという点は、むしろ逆もどりのような感じがいたします。

 それから周波数の測定装置について三十七條の規定がございますが、この規定を嚴格に守ろうといたしますと、ざつと考えましても十万円以上の金がかかるので、実験だけをやつている局あるいはアマチユア無線局は、そのような金をそれに充てることは不可能な状況でございます。これはまた周波数の点でも、ほかの無線と違いまして、たとえばアマチユア無線では、何キロサイクルから何キロサイクルという巾をもつて国際的に與えられているのでありまして、現在どこの国におきましても、その間に非常にたくさんの局が電波を出しておりますから、そのうちでは波長の選定は自由ということになつております。従つてほかの無線局のように、ある周波数に対して何%の誤差というような規定は不適当でございまして、その周波数帶の両端だけをはつきり押えることが必要かと存じます。また周波数計についても、そういう技術的な條件を満足しさえすればいいわけでございまして、こういう点に関しても、たとえばアマチユア無線局に備えつける周波数測定装置に関する規定は、電波監理委員会規則で別に定めるというふうにしていただきたいのであります。一体にこういう法律は、公共の利益のためにつくられたものでありますにもかかわらず、以前では規則できまつておりました検査料とか、あるいは試験の検定料というようなものにつきまして、多額の料金を徴收するということを、法律で明確に規定してございます。これは現在のように物価の変動しますときに、法律の上でなせこういうことまで規定しなければならぬかという感じを受けるわけで、特に個人的興味で行います場合に、何万円はもちろんのこと、同千円もそういう検査料その他にとられるということは、実際上は禁止的な法律になつてしまうということを感ずるわけでございます。

 初めにも申しましたように、みんながこの電波を利用して行くのに、いかにみんなのためになるようになるかという立場で、法規、法則をつくつていただく。それからたとえば今後国際的ないろいろな会議が開かれるのでありますが、そういう際にこれは監理委員会の委員の問題になつて参りますけれども、いろいろな立場の者が無線を利用しておる。そのときに各人の立場をみんな理解して、国際会議に臨んでいただきたい。現在までの現況では、だれかお役人が行く。そのお役人の特殊な立場における声しか国際会議には伝わらないということは、非常に問題でございますから、そういう点で監理委員は十分な各層の理解を持つた人が選ばれることを希望しておきます。ごく特殊な立場で申しますけれども、私の公述はこれで終ります。

068 橋本登美三郎

○橋本(登)委員 アマチユア無線に関しましていろいろお話があり、たいへん参考なりまして、われわれも御説の通りにやつて行きたいと思つております。従来は検査料は無料であつたが、今回は最高額がきめられた。もちろん監理委員会がその範囲内においてきめるのであるから、アマチユア無線の免許料や手数料については、こんな金額ではなくて、非常に少額のように聞いておりますが、原則としてこういう料金をとることは、私はさしつかえないと思います。なるほど公共の福祉ということから言えば、公共の問題に対して政府がその手数料なり、費用をとるのはけしからぬという考え方もありますが、一応今日の経済思想は、更生経済いう建前から、いろいろの法案ができていると思います。従つて実際上受けるに必要な最小限度の費用をとつてもよいということを法律においてきめることは、大体においてさしつかえないと考えますが、一応あなたの御意見をお聞きします。

069 大河内正陽

○大河内公述人 お答えいたします。こういう料金がきめられているということに対して、全面的に反対を申し上げたわけではございません。ただ前には規則できまつていたことが、このような明確な数字を與えておくということは、私法律のことはよく存じませんが、私の今までの常識からいたしますと、以下ということは、その最高額にきめられることが多いという経験を持つております。従つて法律でこういう明確な料金や検定料をきめるべきではなく、規則程度できめておくのがよいのではないかというふうに思つたのであります。こういう問題に関しては、技術的なことばかりではなく、予算の画もあつて他の官庁の制約を受けるものと思いますが、そういう際にアマチユア無線の立場として特にこういうことをやるのは、これには若い中学生や高等学校の生徒が、非常な。パーセンテージを占めるわけであつて、そういう人たちが小づかいをくめんしながら機械をつくるのであるから、そういう意味において、もしとらなければならぬということであれば、極力最低の検査料にきめていただきたいと思います。



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