アマチュア局の自己確認権を利用したTS-680S変更検査省略事例

 1.はじめに

アマチュア無線免許従事者の自己確認権と包括免許との関係」の3項で「日本においても、アマチュアに限定した変更の権利はすでに昭和25年から認められている。よって総務省の検査はすべてにおいて必要との主張は間違っている」と書いたが、当局が行ったTS-680S変更検査省略事例を皆様に披露しておく。

2.変更届の内容

当局のメインリグ50WのTS-680Sは旧技適機に分類されるため再開局にあたってTSSで保障認定を取って移動局免許を取得した。TS-680Sの変復調部はアナログ方式でありこの部分をデジタル方式のRedPitayaで置き換えて送信部のみを残して運用していることになる。これを系統図で表現すると以下のようになる。



申請側は、変復調部の部品取替えで変更検査が必要と判断するかアマチュア局はどの部分の取換えも検査または保証認定を省略できるものと判断するかである。他の無線業務で申請業務に一度は従事したことの経験のある者にとってハイパワーに属する50W機の「変復調という無線機の性能に関係する主要部の取換え」は変更申請が必要と判断するのが常識である。そこで再度関係する省令を読み直してアマチュア局においては軽微な変更届が可能であることを確認して敢えて変更届として保障認定を取リ直さずにLiteで提出した。

3.届提出後のやり取り

やり取りはすべてLiteに記録されているので挨拶部分を省略編集して以下にまとめておく。

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1)アマチュア無線担当からの「通知書照会」

アマチュア無線局の変更申請についてお伺いしたいことがあります。今回の第一送信機(TS-680S)の変調部の部品の取替えですが、交換する部品は交換前と同等品でしょうか。また、部品の交換により、送信機の性能を低下させたり、発振の回路方式または変調の回路方式に変更をきたすものではないという理解でよろしいでしょうか。

2)当局の返事

頂いた質問の内容はアマチュア局の無線設備の部品に関わる工事設計の適用の条件に基づいた「お伺い」ではありませんので答えを控えさせて頂きます。なお、アマチュア局に関しては別表第一号の三の第2の2の項の規定「その他総務大臣が別に告示する工事設計」により適用の条件が規定されておりこれには別表第一号の三の第2の1の項の規定の適用条件の1および2項(筆者注)は含んでいないことに特にご留意ください。以上

3)アマチュア無線担当からの返事

同意する

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質問を「お伺い」と書かれたので当局の返事は極めて慇懃な回答で返したが、担当は小生の意図通りアマチュア業務に適用される「別表第一号の三の第2の2の項の規定「その他総務大臣が別に告示する工事設計」」にはお伺いの骨子が含まれていない「権利」を確認し、その後極めて短く「同意する」と返事して届を受理している。読み直してみて久しぶりにキレキレのやり取りをやったと思う。

4.まとめ

日常的に複数の無線業務を兼任している担当においても変更を申請として受理するか届として受理するかは間違えることもある中で、(生まれてもいない)昭和25年に出来上がった「権利」を全く実体験していない本省課長が「検査はすべてにおいて必要」との見解を出すことがあってもおかしくはない。

しかしながら「この権利は他の無線業務にはない我々アマチュアにしか持っていない「伝家の宝刀」であることを肝に銘ずるべきである。この由縁を知らない家人にとって床の間の刀は台所の包丁と同じである」。ゆえに面倒がらずに時々は時候のあいさつ代わりに変更届をLiteで書くことで刀のさび落としをしなければ大河内OMに申し訳ないと思っている。

最後に、原因の一つはアマチュアの具体的な規定は別表の別表という規定が複雑な構成にある。もし総務省がワイアレス人材の育成を真剣に考えているなら条文がスパゲティーのように絡んで世界でも最悪と言われている電波法の全面改訂を行い新たな人材が電波法を容易に理解でき日常的に触れられる環境を提供してほしい。全面改正の作業は膨大になることから、業務別構成として手始めとしてアマチュア業務を対象として電波法本文ではなく省令告示の部分に限定して改正するのが現実的と考えている。申請作業はLiteの導入で大変便利になっているのでアマチュア業務の電波法改正部分をLiteのヘルプとしてそのまま使えることを意識して作成すればワイアレス人材育成の教科書として利活用されるものと思っている。アマチュア業務での経験が将来プロの実務に役立つことは小生の個人的な体験で立証済みである。

以上

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筆者注:アマチュア以外の無線機に対しての「設備又は装置の工事設計の一部分について変更」は以下の通りで担当は1および2に関して変更がないことを質問として確認してきた。

1 当該部品の属する設備又は装置の性能を低下させない場合であること(送信機の回路(低周波回路を除く。)に使用する電子管,半導体製品(集積回路及び記憶部品を含む。)に係る工事設計を改める場合にあつては,その性能に変更を来すこととならない場合に限る。)。

2 発振の回路方式又は変調の回路方式に変更を来さない場合であること。ただし,電波の型式,周波数又は空中線電力の指定の一部の削除に伴う部品に係る工事設計を削る場合又は改める場合であつて,当該変更に係る部分以外の部分の電気的特性に変更を来すこととならない場合を除く。

3 電波の型式,周波数又は空中線電力の指定の変更に伴う場合でないこと。ただし,次に掲げる場合を除く。

(1) 電波の型式,周波数又は空中線電力の指定の一部の削除に伴う部品に係る工事設計を削る場合又は改める場合であつて,当該変更に係る部分以外の部分の電気的特性に変更を来すこととならない場合

(2) 適合表示無線設備の水晶片に係る工事設計を改める場合(技術基準適合証明、工事設計認証又は技術基準適合自己確認に係る周波数に変更を来すこととなる場合を除く。)

4 第1に規定する当該部品の属する設備又は装置の工事設計の変更の適用の条件に抵触することとならない場合であること。

しかし アマチュアの無線機の変更に規定は別の郵政省告示第87条において20W以上では

(1) 電波の型式又は空中線電力の指定の変更に伴う場合でないこと。

(2) 周波数の指定の変更に伴う場合(水晶片に係る工事設計を削る場合を除く。)でないこと。

のみであり基本的な概形を維持しておれば変更はすべて届で処理できて検査を回避できる。なお20W以下では上記の(1)(2)の制限もなくなっているおり自由性が確保されている。

もしアマチュアにも質問の項目が適用されていれば、RedPitayaに変更することで「性能」の低下がないことを納得してもらうために再検査を選ぶ覚悟をしなければならない。(もちろん当時の郵政省はアマチュアに悪人はいない(筆者注2)と権利を認めたし小生もRedPitayaのほうが性能が良くなる意図で変更しようと思ったのだけれど。)

この権利は条文構成により明示的でなく「知る人ぞ知る」であるが、他の無線設備の免許人にとってはアマチュアのみの権利として映り羨ましがられ「Technical Neutralityまたはブラックボックス化した近代的規定でありぜひ我々への適用をお願いしたい」と本省課長の前に陳情の行列ができると思う。ただし他の無線設備がアマチュアのように無線技士で運用されているか無線設備の操作を行う無線通信士なのかの前提がありこれが陳情を受け付けてもらえるポイントをよく知って並んだ方がよいと思う。

JARLは少なくとも「アマチュア無線の発展のためにJARLが取組んできたこと」の中で触れておくべき偉大な業績である。


筆者注2:権利を利用した悪知恵として一度検査を受けたリニアアンプとエキサイタを2回変更届を出す換骨奪胎で全く新しいリニアアンプとエキサイタに変えることができることは他のサイトで紹介されている。同じ手法で当局の第一装置はアナログ方式のTS-680Sから下の高性能SDR Charly25に検査なしで置換えることができる。やるかやらないかは良識の範疇かもしれないが性能は上がり電波監視上も喜ばしいことでWin-Winかもしれない。

別な見方をすれば現状日本のアマチュア局の権利は無線機ごとの包括免許制度であるとも考えられる。一旦事前審査に合格すればあとは指定事項変更以外は問わない意味で。ただし変更を加えたら電波管理上遅くても結構ですからLiteで報告してくださいが細かい違いである。今日Liteで電子申請に進化したことを考えれば時々は電波法を読み直して申請するのは従事者としての責務でもしできない方はアマチュア無線の電波利用をご遠慮くださいという所謂「会員制度」として出来上がっているものと理解することができる。もちろんこの会員クラブは他の会員クラブを選択できない国家の独占なのでので受理する側もそれなりの知識を持っていただければと願うのは蛇足であるが。





(2022年8月12日記)

筆者注3:故障した技適機を免許人が修理した場合は技適機の適合がされなくなるという厳密な議論を読んだことがあるが、技適機を使っていて故障を起こしてメーカーで修理依頼せず自分で部品を交換した場合もこの届出が適用され合法となることに注意して頂きたい。

(2022年9月7日改定)

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